
耳掃除の道具を準備すると逃げる。
耳へ手を近づけただけで顔をそむける。
耳を持ち上げようとすると暴れたり、うなったり、飼い主さんの手を噛もうとしたりする。
愛犬の耳を清潔にしてあげたいと思っていても、強く嫌がられると、自宅でのお手入れを続けるのが難しくなりますよね。
しかし、犬が耳掃除を嫌がるのは、わがままやしつけ不足だけが原因ではありません。
耳や顔まわりを触られることに慣れていない、コットンの感触が苦手、冷たい洗浄液に驚いた、過去に強く押さえられたなど、さまざまな理由が考えられます。
また、今までは平気だった犬が急に耳掃除を嫌がるようになった場合は、外耳炎、耳の傷、異物などによる痛みやかゆみが隠れている可能性があります。
耳が赤い、強く臭う、耳垢が増えた、何度も頭を振る、耳を触ると鳴く場合は、慣らし練習より先に動物病院へ相談してください。
犬の耳掃除に慣らす時は、いきなり耳の中を拭いたり、洗浄液を入れたりしません。
まずは頬へ短く触れる練習から始め、耳の外側、耳を持ち上げる動作、コットンの順に、犬が受け入れられる範囲を広げます。
この記事では、犬が耳掃除を嫌がる理由、耳へ触れる前の確認事項、7段階の慣らし方、逃げる・暴れる・噛む時の対処法、やってはいけない耳掃除を解説します。

犬が耳掃除を嫌がる主な理由
耳掃除を嫌がる理由は犬によって異なります。
どの動作で最初に嫌がるのかを確認すると、練習を始める段階が分かりやすくなります。

顔や耳へ触られることに慣れていない
犬にとって、顔や耳の周囲は敏感な場所です。
普段は背中や胸しか触られていない犬が、耳掃除の時だけ突然耳をつかまれると、不安や驚きを感じることがあります。
耳を触った瞬間に顔をそむける犬は、耳掃除の道具を使う前に、頬や耳の付け根へ短く触れる練習が必要です。
耳を持ち上げられる感覚が苦手
垂れ耳の犬では、耳の状態を見るために耳介を持ち上げる必要があります。
しかし、耳を強く引っ張られたり、長時間持ち上げられたりすると、犬が拘束されているように感じることがあります。
最初は耳の先へ一瞬触れ、慣れてから数センチ持ち上げる練習へ進みましょう。
コットンやガーゼの感触が苦手
乾いたコットンの繊維、湿ったコットンの冷たさ、耳の表面を拭かれる感覚を嫌がる犬もいます。
耳へ直接当てる前に、犬へコットンを見せる、においを嗅がせる、頬へ軽く当てるという段階を作ります。
洗浄液やボトルを怖がっている
耳洗浄液のボトルを見ただけで逃げる犬は、ボトルと耳掃除の嫌な経験を結びつけている可能性があります。
また、冷たい液体が耳へ入る感覚や、ボトルの先端が近づくことを怖がる場合もあります。
獣医師から耳洗浄を指示されている場合も、最初はボトルを見せるだけの練習から始めてください。
過去に強く押さえられた
耳掃除中に体や顔を強く押さえられた経験があると、耳掃除の準備をしただけで逃げたり、うなったりすることがあります。
暴れる犬をさらに強く押さえると、恐怖や防御反応が強くなる可能性があります。
一度の耳掃除を終わらせることより、短い時間で落ち着いて終われる経験を増やすことが大切です。
耳に痛みやかゆみがある
外耳炎や耳の傷などがある犬は、耳へ触れられるだけで痛がることがあります。
次のような変化がある場合は、しつけの問題と決めつけないでください。
- 耳を何度もかく
- 頭を繰り返し振る
- 片耳だけ下げている
- 耳を床へこすりつける
- 耳から強いにおいがする
- 耳垢が急に増えた
- 耳の中が赤い、腫れている
- 黄色や黒い耳垢が出る
- 耳へ触ると鳴く
- 首を傾けている
耳のにおい、耳垢、赤みがある場合はこちらも確認してください。
・犬の耳が臭い時のチェック方法|耳垢・外耳炎・アレルギーの原因と受診目安
耳掃除の練習前に耳の状態を確認する
耳掃除への慣らし練習は、耳に強い炎症や痛みがないことを確認してから始めます。
犬が落ち着いている時に、耳の外側と見える範囲を確認してください。
- 普段より強いにおいがないか
- 赤みや腫れがないか
- 耳垢が急に増えていないか
- 血や膿のような分泌物がないか
- 耳の周囲に傷がないか
- 頭を何度も振っていないか
- 耳をかき続けていないか
- 触れた時に痛がらないか
- 首が傾いていないか
- 歩き方がふらついていないか
耳を確認するために、犬の顔を強く固定したり、耳の中を無理に広げたりしないでください。
痛みや強いかゆみが疑われる場合は、自宅で耳掃除を続けず受診を優先します。
首の傾きやふらつきがある場合は、耳の奥や神経の異常も確認が必要です。
・犬が首を傾げる原因とは?斜頸・ふらつきの危険サインと受診目安
犬の耳掃除は全頭に毎回必要とは限らない
耳掃除は、すべての犬へ同じ頻度や方法で行うものではありません。
耳が健康で汚れが少ない犬では、耳の外側と見える範囲を定期的に確認するだけでよい場合があります。
反対に、外耳炎の治療中、耳垢がたまりやすい、耳道が狭いなどの理由で、獣医師から定期的な洗浄を指示される犬もいます。
耳掃除の頻度と方法は、耳の状態に合わせて獣医師へ確認してください。
耳が汚れていないのに、毎日奥まで掃除すると、耳道を刺激してしまう可能性があります。
耳掃除の練習に必要なもの

- 小さく分けたごほうび
- 清潔で柔らかいコットンまたはガーゼ
- 滑りにくいマット
- 獣医師から指定された犬用耳洗浄液
- 汚れたコットンを入れる袋
慣らし練習の最初から、耳洗浄液を使う必要はありません。
頬や耳へ触れる練習では、ごほうびだけでも始められます。
耳掃除を行う場所には、犬が滑りにくく、逃げ道を完全にふさがない場所を選びます。
高い台から飛び降りる危険があるため、慣れていない犬は床に敷いたマットの上で練習すると安全です。
犬を耳掃除に慣らす7段階
次の段階へ進む基準は、練習した日数ではなく犬の反応です。
犬が顔をそむける、体を固くする、耳を伏せる、離れようとする場合は、一つ前の段階へ戻ります。

ステップ1 頬やあごへ一瞬触れる
犬が落ち着いている時に、頬やあごへ1秒ほど触れ、すぐに手を離します。
落ち着いていられたら、その直後に褒めてごほうびを与えます。
正面から急に手を伸ばすより、犬から見える位置で横側からゆっくり手を近づけましょう。
ステップ2 耳の付け根へ触れる
頬へ触れられるようになったら、頬から耳の付け根へ向かってやさしく手を移動します。
最初は耳を持たず、付け根へ指先を一瞬当てるだけで終了します。
犬が嫌がらなければ、触れる時間を少しずつ延ばしてください。
ステップ3 耳の外側を短く触る
次に、耳の外側へ軽く触れます。
耳の先端をつかんだり、強く引っ張ったりせず、手のひらや指でそっと触れてすぐ離します。
左右の耳で反応が違う場合は、痛みや違和感がないか注意してください。
ステップ4 耳を一瞬だけ持ち上げる
垂れ耳の犬では、耳の外側へ触れられるようになってから、耳介を一瞬だけ持ち上げます。
耳の中を長く見ようとせず、少し持ち上げ、すぐに戻して褒めます。
立ち耳の犬では、耳の付け根を支えながら、見える範囲を一瞬確認する練習をします。
ステップ5 乾いたコットンを近づける
耳を持ち上げられるようになったら、乾いたコットンやガーゼを犬へ見せます。
犬が自分からにおいを嗅いだら褒め、次に頬や耳の外側へ一瞬だけ当てます。
この段階では、汚れを取ろうとして何度もこする必要はありません。
ステップ6 見える範囲を一度だけ拭く
コットンを当てても落ち着いていられるようになったら、耳介や耳の入り口など、外から見える範囲を一度だけやさしく拭きます。
奥まで指やコットンを入れず、強くこすらないでください。
一回拭けたらその日は終了しても構いません。
左右すべてを一度に終わらせるより、「今日は右耳を一度拭く」という小さな目標で進めましょう。
ステップ7 獣医師に指示されたケアへ進む
耳洗浄液や点耳薬が必要な犬は、獣医師から方法を教わったうえで実施します。
最初はボトルを見せる、耳の近くへ持っていく、容器の先端を耳へ入れずに近づけるなど、動作を細かく分けます。
犬が強く嫌がる場合は、家庭で無理に続けず、投薬方法や通院での処置について動物病院へ相談してください。
練習時間とごほうびの使い方
最初の練習は、数秒で終わらせます。
耳へ一度触れただけでも、犬が落ち着いていられたなら成功です。
- 犬が落ち着いている時間に行う
- 最初は数秒で終了する
- 一回に一つの動作だけ練習する
- できた直後に褒める
- ごほうびは小さく分ける
- 犬が嫌がる前に終了する
- 体調が悪い日は行わない
耳を触り終えてから時間がたってごほうびを与えるより、触れられた直後に与える方が、犬へ成功した動作を伝えやすくなります。
犬がごほうびを食べない場合は、緊張が強すぎる、耳に痛みがある、練習の段階が難しすぎる可能性があります。
距離を取るか、その日の練習を終了してください。
逃げる・暴れる・噛む時の対処法

道具を見ると逃げる時
コットンや耳洗浄液を見せただけで逃げる場合は、道具と嫌な経験が結びついている可能性があります。
犬を追いかけて捕まえず、犬から離れた場所に道具を置き、同じ部屋で落ち着いていられたら褒めます。
道具を持つ練習と、実際に耳へ触る練習を別々に行っても構いません。
耳へ触ると顔をそむける時
顔をそむけるのは、「距離を取りたい」「今は触られたくない」と伝えている可能性があります。
顔を追いかけるように手を動かさず、頬へ触る前の段階へ戻りましょう。
暴れる時
暴れる場合は、体を固定する時間が長すぎる、耳へ触る段階が早すぎる、痛みがあるなどの可能性があります。
力で押さえて続けず、一度解放して安全を確保します。
次回は、犬が自由に立った状態で頬へ一瞬触れるところから再開してください。
うなる時
うなりは、恐怖、不安、痛みなどを伝える警告である可能性があります。
うなったことを叱り、警告だけをやめさせようとしないでください。
どの動作でうなったのかを記録し、耳の痛みが疑われる場合は受診します。
噛もうとする時
飼い主さんの手へ歯を当てようとした場合は、その日の練習を中止してください。
噛む犬の顔を一人で強く固定したり、耳の中へ無理に薬を入れたりするのは危険です。
耳の病気や痛みがないか動物病院で確認し、健康上の問題がない場合は、犬の扱いに詳しいトレーナーや専門家へ相談しましょう。
耳掃除でやってはいけないこと
- 逃げる犬を追いかけて捕まえる
- 体や顔を強く押さえつける
- 耳を強く引っ張る
- 綿棒を耳の奥へ入れる
- 指やコットンを見えない場所まで入れる
- 耳垢を爪や器具でかき出す
- 赤い耳や痛がる耳を繰り返し掃除する
- 人間用の耳薬を使用する
- アルコールや消毒液で拭く
- 自己判断で洗浄液を混ぜる
- 毎日何度も掃除する
- 耳毛を無理に大量に抜く
- うなった犬を大声で叱る
犬の耳道は外から見えない方向へ続いているため、家庭で綿棒を奥へ入れると、汚れを押し込んだり、耳道を傷つけたりする可能性があります。
人間用の耳薬や消毒液も、犬の耳の状態に適しているとは限りません。
鼓膜の状態や炎症の原因によって使用できる薬や洗浄液が異なるため、獣医師の指示を受けてください。
動物病院へ相談したい耳の異常

- 今まで平気だったのに急に嫌がる
- 耳を触るとキャンと鳴く
- 耳から強いにおいがする
- 耳の中が赤く腫れている
- 耳垢が急に増えた
- 黒い耳垢が大量に出る
- 黄色や緑色の分泌物がある
- 耳から血が出ている
- 何度も頭を振る
- 耳を強くかき続ける
- 耳を床へこすりつける
- 耳の外側が膨らんでいる
- 片耳だけ強く気にしている
- 首を傾けている
- 歩き方がふらつく
- 目が左右に揺れて見える
- 元気や食欲が落ちている
強い痛みや出血、首の傾き、ふらつきがある場合は、耳掃除で様子を見ず、早めに診察を受けてください。
耳の中へ草の種などが入った場合も、家庭でピンセットを使って取ろうとすると、異物を奥へ押し込む可能性があります。
片耳だけを急に激しく気にする場合は、異物を含めて確認が必要です。
動物病院で行われる耳の検査
耳の異常が疑われる場合は、耳の状態に応じて次のような確認が行われます。
- 耳の外側や耳道の確認
- 耳鏡による耳の奥の確認
- 耳垢を採取して行う顕微鏡検査
- 細菌やマラセチアの確認
- 耳ダニや異物の確認
- 必要に応じた細菌培養検査
- アレルギーや皮膚疾患の確認
痛みや炎症が強い犬では、無理に家庭で掃除するより、動物病院で痛みと炎症を抑えてからケアを再開した方がよい場合があります。
耳の状態が改善した後に、家庭で行う方法や頻度を確認しましょう。
子犬・成犬・シニア犬の慣らし方
子犬の場合
子犬の時期は、耳をきれいにすることより、顔や耳へ触られても怖いことが起きないと覚えてもらうことを優先します。
頬へ一度触れる、耳の外側を一瞬触るなど、数秒の練習から始めましょう。
黒い耳垢や強いかゆみがある子犬では、耳ダニなどの確認が必要になるため、家庭で掃除を繰り返さず受診してください。
成犬の場合
成犬でも、耳掃除を最初の段階からやり直すことはできます。
すでに道具を見ただけで逃げる犬は、耳へ触る練習と道具に慣らす練習を別々に行いましょう。
保護犬や怖がりな犬の場合
過去の経験が分からない犬は、顔へ手を近づけられること自体を怖がる場合があります。
犬が自分から離れられる場所で練習し、逃げ道をふさがないようにしてください。
噛みつく可能性がある場合は、家庭だけで進めず、動物病院や専門家へ相談しましょう。
シニア犬の場合
シニア犬が急に耳掃除を嫌がる場合は、耳の炎症だけでなく、首や関節の痛みが関係していることもあります。
同じ姿勢を長く続けさせず、滑らない場所で短時間行ってください。
耳を持ち上げた時だけでなく、顔や首へ触れた時にも痛がる場合は、動物病院で確認してもらいましょう。
家族全員で統一したいルール

- 犬を追いかけて捕まえない
- 耳を強く引っ張らない
- 犬が嫌がる前に終了する
- 同じ合図で練習を始める
- できた直後に褒める
- その日に成功した段階を共有する
- 一人だけが急に耳洗浄を行わない
- 耳のにおい、耳垢、赤みを記録する
- 痛みが疑われる時は練習を中止する
「今日は耳の外側へ触れた」「右耳を一度持ち上げられた」というように共有すると、犬へ同じ難易度で対応できます。
ほかのお手入れにも共通する慣らし方
耳掃除に限らず、犬のお手入れは、体を触る練習、道具に慣れる練習、実際のお手入れを分けると進めやすくなります。
一度にすべて終わらせず、犬が受け入れられる小さな段階を積み重ねてください。
体を触られることや道具を嫌がる場合は、ほかのお手入れ記事も参考にしてください。
・犬がブラッシングを嫌がる時の慣らし方
・犬が爪切りを嫌がる時の慣らし方
・犬がシャンプーを嫌がる時の慣らし方
よくある質問
Q. 犬の耳掃除は毎日必要ですか?
すべての犬に毎日の耳掃除が必要なわけではありません。
健康な耳を頻繁に掃除すると、耳道を刺激する可能性があります。
犬の耳の状態に合う頻度を、かかりつけの獣医師へ確認してください。
Q. 綿棒で見える耳垢を取ってもよいですか?
家庭で綿棒を耳道へ入れるのは避けてください。
汚れを奥へ押し込んだり、犬が急に動いた時に耳を傷つけたりする可能性があります。
家庭で拭く場合は、コットンやガーゼで外から見える範囲だけをやさしく拭きます。
Q. 耳洗浄液は市販品を自由に使えますか?
耳の炎症や鼓膜の状態によって、適さない洗浄液がある可能性があります。
耳が赤い、臭う、耳垢が多い、痛がる場合は、自己判断で洗浄せず動物病院へ相談してください。
Q. 耳掃除中に頭を振るのは嫌がっているからですか?
耳へ液体が入った後に頭を振ることはありますが、炎症、耳垢、異物、痛みなどで繰り返し頭を振ることもあります。
耳掃除をしていない時も何度も振る場合や、赤み、におい、耳垢がある場合は受診してください。
Q. 噛む犬は口輪をして耳掃除すればよいですか?
口輪を着ければ、痛みや恐怖の原因が解決するわけではありません。
耳の痛みがないか確認し、家庭で安全に対応できない場合は動物病院へ相談してください。
口輪が必要な処置は、犬の状態と安全を確認したうえで専門家の指示に従います。
Q. トリミングサロンへ任せてもよいですか?
耳が健康で、家庭でのケアが難しい場合は、トリミングサロンへ相談できることがあります。
ただし、強いにおい、赤み、痛み、異常な耳垢がある場合は、トリミングより先に動物病院で診察を受けてください。
まとめ|耳掃除は頬へ触れる練習から始めよう
犬が耳掃除を嫌がる場合は、いきなり耳の中を掃除せず、次の順番で慣らします。
- 頬やあごへ一瞬触れる
- 耳の付け根へ触れる
- 耳の外側を短く触る
- 耳を一瞬だけ持ち上げる
- 乾いたコットンを近づける
- 見える範囲を一度だけ拭く
- 獣医師に指示されたケアへ進む
犬が顔をそむける、体を固くする、逃げる場合は、現在の段階が難しすぎる可能性があります。
一つ前の段階へ戻り、数秒の練習と小さな成功を繰り返しましょう。
暴れる、うなる、噛もうとする犬を押さえつけて続けると、耳掃除への恐怖や防御反応が強くなる可能性があります。
また、今まで平気だった犬が急に嫌がる場合は、外耳炎や耳の傷による痛みを確認する必要があります。
耳の赤み、強いにおい、耳垢の増加、出血、頭を振る、首の傾きがある場合は、家庭で掃除を続けず動物病院へ相談してください。


