
愛犬が急に元気をなくし、ごはんを食べず、何度か吐いている。
以前から膀胱炎を繰り返していて、最近は水を飲む量や尿の量まで増えてきた。
血尿や頻尿があり、「また膀胱炎かな」と思っていたら、血液検査で腎臓の数値まで悪化していた。
このような時に注意したい病気のひとつが、犬の腎盂腎炎(じんうじんえん)です。
腎盂腎炎は、腎臓の中で尿が集まる腎盂や腎臓の組織に細菌感染が起こる病気です。多くは尿道や膀胱など下部尿路側の細菌が上へ進み、尿管を通って腎臓へ到達する「上行性感染」で起こります。
膀胱炎と同じように頻尿や排尿時の違和感が見られることもありますが、腎盂腎炎では腎臓まで感染が及ぶため、元気消失、食欲低下、嘔吐、急性腎障害など全身への影響が問題になります。
一方で、腎盂腎炎だから必ず高熱が出たり、腰を強く痛がったりするわけではありません。目立った症状が少ない犬や、慢性的に感染を繰り返して初めて見つかる犬もいます。
そのため、「熱がないから腎盂腎炎ではない」「血尿がないから腎臓の感染ではない」と家庭で判断することはできません。
診断では、尿検査だけでなく尿培養検査が非常に重要です。どの細菌が感染しているのか、どの抗菌薬が効きやすいのかを確認し、必要に応じて血液検査や腹部超音波検査などを組み合わせます。
また、尿管結石などで尿の流れが妨げられた状態に感染が重なると、腎盂に膿がたまる膿腎症へ進み、緊急処置が必要になることがあります。
ぐったりして反応が弱い、何度も吐く、水も飲めない、尿がほとんど出ない、強い痛みがある、呼吸が速い、震えが続くなど全身状態が悪い場合は、膀胱炎だと思って様子を見ず早めに動物病院へ連絡してください。
この記事では、犬の腎盂腎炎とはどのような病気なのか、膀胱炎との違い、症状、原因、リスクを高める病気、検査、尿培養、治療、再発予防、自宅で注意したいこと、緊急受診の目安まで詳しく解説します。

- 犬の腎盂腎炎とは?
- 犬の腎盂腎炎で見られる主な症状
- 急性の腎盂腎炎では急性腎障害を起こすことがある
- 慢性の腎盂腎炎では症状が目立たないこともある
- 膀胱炎と腎盂腎炎の違い
- 犬の腎盂腎炎の主な原因
- どんな犬が腎盂腎炎になりやすい?
- 血尿がある時は腎盂腎炎だけと決めつけない
- 水をよく飲む・尿が増える場合
- 腎盂腎炎の診断は一つの検査だけでは決まらない
- 尿培養が重要な理由
- 犬の腎盂腎炎の治療
- 抗菌薬を途中でやめない・残りを再使用しない
- 治療後の再検査が大切
- 腎盂腎炎を繰り返す時は背景の病気を探す
- 腎盂腎炎は食事だけで治せる?
- 水は多く飲ませた方がいい?
- 自宅で記録しておきたいこと
- すぐ受診したい危険サイン
- 腎盂腎炎でやってはいけないこと
- 子犬で腎盂腎炎を繰り返す場合
- シニア犬では腎臓病との区別・併発に注意
- よくある質問
- まとめ|犬の腎盂腎炎は「膀胱炎+全身症状」だけでなく症状が乏しいケースにも注意
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犬の腎盂腎炎とは?
腎盂腎炎は、腎臓に起こる感染症です。
腎臓では血液から老廃物や余分な水分をこし取り、尿を作っています。作られた尿は腎臓内部の腎盂へ集まり、尿管を通って膀胱へ運ばれ、最後に尿道から体外へ排出されます。
この尿の通り道を下から上へ細菌が移動し、腎臓まで達して感染を起こすのが典型的な腎盂腎炎です。
- 尿道
- 膀胱
- 尿管
- 腎盂・腎臓
このように感染が上へ進むため、細菌性膀胱炎など下部尿路感染が背景にある犬で腎盂腎炎が起こることがあります。
ただし、すべての膀胱炎が腎盂腎炎へ進むわけではありません。また、腎盂腎炎の犬で典型的な膀胱炎症状が目立たないこともあります。
犬の腎盂腎炎では、大腸菌がよく分離される細菌として知られていますが、原因菌は一種類ではありません。そのため、見た目だけで原因菌を決めて薬を選ぶことはできません。
犬の腎盂腎炎で見られる主な症状

腎盂腎炎の症状は犬によってかなり異なります。急性に強い全身症状が出る犬もいれば、慢性的で目立った症状が少ない犬もいます。
- 元気がない
- 食欲が落ちる
- 吐く
- 下痢をすることがある
- 発熱することがある
- お腹や腎臓周辺を痛がることがある
- 水をよく飲む
- 尿量が増える
- 頻尿になる
- 少量ずつ何度も尿をする
- 排尿時に違和感・痛みがある
- 血尿が出ることがある
- 室内で粗相が増える
- 体重が減る
ここで注意したいのは、発熱や腎臓周辺の痛みが必ず出るわけではないことです。
腎盂腎炎という名前から「高熱と強い腰痛があれば分かる」と考えたくなりますが、犬では発熱や腹部痛が確認されないケースもあります。
そのため、膀胱炎を繰り返している犬で腎臓の数値が急に悪化した、全身状態が悪くなった、尿培養で細菌が確認されたという場合には、熱がなくても腎盂腎炎を考える必要があります。
元気がない時はこちらも確認してください。
・犬が元気がない原因とは?ぐったりしている時の危険サインと受診目安を解説
嘔吐が続く場合はこちらです。
・犬が吐く原因とは?嘔吐が続く時の危険サインと受診目安を解説
急性の腎盂腎炎では急性腎障害を起こすことがある
腎臓に強い感染や炎症が起こると、腎機能が急速に低下して急性腎障害につながることがあります。
血液検査ではクレアチニンなど腎臓に関係する数値が上昇することがあり、脱水、電解質異常、吐き気などを伴う場合があります。
- 急にぐったりする
- ほとんど食べない
- 何度も吐く
- 脱水する
- 尿量が大きく変化する
- 重症では全身状態が急速に悪化する
腎盂腎炎は、もともと慢性腎臓病がある犬の腎機能を急に悪化させる原因になることもあります。
「腎臓病の犬だから数値が悪いのは仕方ない」と考えず、短期間で腎数値が悪化した場合には感染など新しい要因が重なっていないか確認することが重要です。
・犬の腎臓病とは?多飲多尿・食欲不振・体重減少で注意したい病気を解説
慢性の腎盂腎炎では症状が目立たないこともある
腎盂腎炎は急性だけではありません。
感染が長く続いたり再発を繰り返したりすると、目立った高熱や強い痛みがないまま慢性的に腎臓へダメージを与えることがあります。
このような犬では、飼い主さんが気づく変化が「水を飲む量が増えた」「尿量が多い」「なんとなく痩せてきた」程度の場合もあります。
また、抗菌薬を飲んでいる間だけ尿路症状が改善し、しばらくするとまた感染を繰り返す場合には、単純な膀胱炎だけではなく腎盂腎炎や感染を起こしやすい基礎疾患の評価が必要になることがあります。
膀胱炎と腎盂腎炎の違い
| 項目 | 膀胱炎 | 腎盂腎炎 |
|---|---|---|
| 主な場所 | 膀胱 | 腎盂・腎臓 |
| 頻尿 | よく見られる | 見られることがある |
| 血尿 | 見られることがある | 見られることがある |
| 排尿時の痛み | 見られやすい | 下部尿路感染を伴えば見られる |
| 元気・食欲低下 | 軽症では目立たないことも多い | 全身症状として見られることがある |
| 嘔吐 | 通常は主症状ではない | 腎障害や全身状態悪化で見られることがある |
| 腎機能への影響 | 通常は直接大きく影響しない | 急性腎障害や慢性的腎障害につながることがある |
ただし、症状だけで膀胱炎と腎盂腎炎を確実に区別することはできません。
特に、頻尿や血尿に加えて元気低下、食欲不振、嘔吐、腎臓の数値悪化がある場合は、腎盂腎炎を含む上部尿路の異常を確認します。
・犬の膀胱炎とは?頻尿・血尿・トイレが近い時に注意したい病気を解説
犬の腎盂腎炎の主な原因

細菌が下部尿路から上がってくる
犬の腎盂腎炎の多くは、尿道や膀胱側の細菌が尿管を通って腎臓へ上がることで起こります。
尿路には細菌が増えにくい仕組みがありますが、尿の流れが悪くなる、膀胱を十分に空にできない、尿の性質が変化するなどの条件があると感染リスクが高くなることがあります。
尿路結石・尿管閉塞
腎臓、尿管、膀胱などの結石は、正常な尿の流れを妨げたり、尿路の粘膜へ刺激を与えたりすることがあります。
特に、尿管が結石などで詰まった状態に細菌感染が重なると、感染した尿や膿が腎盂にたまり、重症化することがあります。
・犬の尿路結石とは?血尿・頻尿・尿が出ない時に注意したい病気を解説
尿が膀胱に残りやすい
排尿後も膀胱内へ尿が多く残る状態は、細菌が増えやすくなる要因のひとつです。
神経の病気、尿道や前立腺の問題などで膀胱を十分に空にできない犬では、尿路感染を繰り返すことがあります。
糖尿病などの基礎疾患
糖尿病では尿中に糖が出ることがあり、尿路感染のリスクが高くなる場合があります。
クッシング症候群、免疫を抑える薬の使用、慢性腎臓病など、感染へ抵抗する力や尿路環境に影響する病気・治療も背景として確認します。
異所性尿管など先天的な尿路の異常
若い犬では、尿管が正常な位置へ開口しない異所性尿管などの先天的な構造異常が尿路感染の原因になることがあります。
子犬の頃から尿漏れが続く、外陰部周辺がいつも湿っている、尿路感染を何度も繰り返す場合には、単にトイレのしつけの問題と考えず尿路の構造を確認することがあります。
どんな犬が腎盂腎炎になりやすい?
腎盂腎炎は年齢や犬種に関係なく起こり得ます。
ただし、尿路感染全体ではメスや高齢犬で多く見られ、腎盂腎炎でも高齢の犬やメスが多いとされています。
さらに、次のような条件がある犬では注意します。
- 細菌性膀胱炎を繰り返している
- 尿路結石がある
- 尿が残りやすい
- 糖尿病がある
- クッシング症候群などの基礎疾患がある
- 慢性腎臓病がある
- 尿道カテーテルを使用したことがある
- 先天的な尿路の構造異常がある
- 免疫機能に影響する病気や治療がある
一方、これらに当てはまらない健康な犬でも腎盂腎炎になる可能性はあります。
血尿がある時は腎盂腎炎だけと決めつけない
腎盂腎炎で血尿が見られることはありますが、犬の血尿でより一般的に考える原因には膀胱炎、尿路結石、前立腺疾患、尿路の腫瘍などもあります。
また、赤や茶色の尿が必ず赤血球による血尿とは限りません。
そのため、尿の色だけで感染部位や病名を判断せず、尿検査で赤血球、白血球、細菌、結晶などを確認します。
・犬の血尿の原因とは?赤いおしっこ・血が混じる時の危険サインと受診目安
水をよく飲む・尿が増える場合
腎盂腎炎や腎機能低下では、水を飲む量や尿量が増えることがあります。
ただし、多飲多尿は糖尿病、クッシング症候群、慢性腎臓病など多くの病気で起こります。
「腎盂腎炎なら水をたくさん飲むはず」と考えるのではなく、飲水量・尿量の変化を病院へ伝えるための情報として記録しましょう。
・犬が水をよく飲む原因とは?多飲多尿で注意したい病気と受診目安
腎盂腎炎の診断は一つの検査だけでは決まらない

腎盂腎炎の診断では、症状、身体検査、尿検査、尿培養、血液検査、画像検査などを組み合わせます。
腎臓の超音波画像だけを見て「腎盂腎炎」と確定できるとは限らず、反対に超音波で大きな変化がなくても感染を完全に否定できるとは限りません。
尿検査
尿比重、赤血球、白血球、細菌、タンパク、糖、結晶などを確認します。
細菌が見えることは腎盂腎炎を疑う手掛かりになりますが、尿検査だけでは感染が膀胱に限局しているのか腎臓まで及んでいるのか判断できない場合があります。
尿培養検査
腎盂腎炎を疑う時に非常に重要なのが尿培養です。
尿を培養して細菌が増えるかを確認し、同時に薬剤感受性検査を行うことで、どの抗菌薬が効きやすいかを調べます。
できるだけ汚染の少ない尿を得るため、膀胱へ針を刺して採尿する膀胱穿刺で検体を採ることがあります。
すでに抗菌薬を使用していると培養結果へ影響する場合があるため、以前の薬が残っていても受診前に自己判断で飲ませないことが大切です。
血液検査
腎臓の機能、脱水、電解質、炎症の程度などを確認します。
腎盂腎炎では白血球の変化が見られることがありますが、典型的な炎症所見が必ず出るわけではありません。
クレアチニンなどが以前より上昇している場合は、急性腎障害や慢性腎臓病の悪化がないか評価します。
腹部超音波検査
腎臓の大きさや形、腎盂の拡張、腎盂内の内容物、尿管、結石、周囲組織などを確認します。
超音波で腎盂の拡張があっても、それだけで感染とは限りません。尿管閉塞などでも腎盂は拡張するため、尿検査や培養結果と合わせて評価します。
レントゲン・追加画像検査
結石の有無や尿路の構造を確認するためにレントゲン検査を行うことがあります。
症例によっては、さらに詳しい尿路評価のためCTなどが検討されることもあります。
尿培養が重要な理由
腎盂腎炎は腎臓組織まで関係する感染症なので、「尿路感染なら何でも同じ抗菌薬」という治療は適切ではありません。
細菌によって効きやすい薬は異なり、過去に抗菌薬を繰り返し使った犬では耐性菌が関係する可能性もあります。
- 原因菌を確認する
- 効果が期待できる抗菌薬を選ぶ
- 不要な抗菌薬使用を減らす
- 再発した時に同じ菌か別の菌かを考える材料にする
これらのために尿培養と薬剤感受性検査が役立ちます。
症状が強い犬では培養結果を待つ間に治療を始めることがありますが、可能であれば抗菌薬投与前に適切な方法で尿検体を採取します。
犬の腎盂腎炎の治療

腎盂腎炎の治療の中心は、原因となる細菌に合った抗菌薬です。
治療薬は尿培養と薬剤感受性検査の結果、腎機能、全身状態などを踏まえて獣医師が選択します。
2025年更新の獣医資料では、細菌性腎盂腎炎の抗菌薬治療期間として10~14日が推奨されています。ただし、この期間は人医療の知見を参考にした部分があり、小動物で最適な治療期間を決める十分な研究データはまだ限られています。
そのため、飼い主さんが「14日飲めば必ず終了」と自己判断するのではなく、犬の状態や培養結果、再検査に基づいて獣医師の指示に従ってください。
全身状態が悪い場合は入院治療
脱水、繰り返す嘔吐、急性腎障害、重い感染症などがある犬では、入院して点滴や吐き気への治療などが必要になることがあります。
水分量は腎臓や心臓の状態によって慎重に調整する必要があるため、「腎臓のために水を大量に入れればよい」という治療ではありません。
尿路閉塞があれば閉塞への治療も必要
尿管結石などによる閉塞が感染に関係している場合は、抗菌薬だけでは改善できないことがあります。
感染した腎臓から尿を排出できない状態では、閉塞を解除したり排液したりする処置が必要になる場合があります。
特に膿腎症では緊急介入が必要になることがあります。
抗菌薬を途中でやめない・残りを再使用しない
薬を飲み始めて数日で元気や食欲が戻ると、「もう治った」と感じるかもしれません。
しかし、症状の改善と感染が完全に解消したことは同じではありません。
獣医師から変更や中止の指示がない限り、処方された方法を守って投与します。
また、数か月後に似た症状が出ても、以前余った抗菌薬を自己判断で使わないでください。
再発時には原因菌が違う可能性があり、先に抗菌薬を使うことで尿培養が正しく評価しにくくなる場合があります。
治療後の再検査が大切
腎盂腎炎では、症状が消えた後も再発や腎機能への影響を確認します。
近年の獣医資料では、抗菌薬治療が終了してから1~2週間以内を目安に再評価し、感染による腎障害が続いていないか確認することが勧められています。
犬の状態によっては、尿検査・尿培養・血液検査などを組み合わせて経過を確認します。
特に再発性尿路感染、尿路結石、慢性腎臓病などがある犬では、その後も継続的なフォローが必要になる場合があります。
腎盂腎炎を繰り返す時は背景の病気を探す
適切に治療しても尿路感染を何度も繰り返す場合は、感染しやすくなる原因が残っていないか調べます。
- 尿路結石
- 尿管の閉塞
- 異所性尿管などの構造異常
- 尿が膀胱に残る病気
- 糖尿病
- クッシング症候群
- 慢性腎臓病
- 前立腺疾患
- 尿路の腫瘍
「体質的に膀胱炎になりやすい犬だから」と毎回同じ治療だけを続けるより、再発する理由を確認することが大切です。
腎盂腎炎は食事だけで治せる?
細菌性腎盂腎炎は、ドッグフードを変えるだけで治療できる病気ではありません。
腎臓病を併発している場合などに食事管理が治療の一部になることはありますが、細菌感染そのものには適切な抗菌薬などの治療が必要です。
また、「尿路の病気だから」と自己判断で尿路用療法食へ変更することも避けてください。
尿路結石がある場合は結石の種類によって食事方針が異なり、腎臓病がある場合は腎機能に合わせた栄養管理が必要になります。
水は多く飲ませた方がいい?
犬がいつでも新鮮な水を飲める状態を保つことは重要です。
一方、腎盂腎炎だからと大量の水を無理に口へ流し込む必要はありません。
吐いている犬、意識が低下している犬、飲み込む力が弱い犬へ無理に水を飲ませると誤嚥する危険があります。
また、尿の回数を減らそうとして水を制限することも避けてください。
自分から水を飲めない、飲んでもすぐ吐く、脱水している場合は、自宅で無理に飲ませず受診してください。
自宅で記録しておきたいこと

腎盂腎炎の治療中や再発を心配する犬では、毎日の小さな変化を記録しておくと診察に役立ちます。
- 食欲
- 元気
- 嘔吐の回数
- 飲水量
- 排尿回数
- 1回の尿量
- 血尿の有無
- 排尿時に痛そうか
- 体重
- 薬を予定どおり飲めたか
ペットシーツを使う犬では尿色の写真を残すこともできます。
ただし、尿の色が正常に見えるから感染が治ったとは判断できません。再診や検査の予定がある場合は、症状が良くなっていても指示どおり受診しましょう。
すぐ受診したい危険サイン
腎盂腎炎が疑われる犬で次の症状がある場合は、早めの受診が必要です。
- ぐったりして反応が弱い
- ほとんど食べない
- 何度も吐く
- 水を飲んでも吐く
- 強く震える・明らかに体調が悪い
- 尿がほとんど出ない、または出ない
- 排尿時に強く痛がる
- 血尿に加えて全身状態が悪い
- お腹や腰周りを強く痛がる
- 呼吸が速い・苦しそう
- 意識がぼんやりしている
尿が出ない場合は、腎盂腎炎だけでなく尿道閉塞などの緊急疾患も考えます。
また、尿路閉塞と感染が同時に起きている場合は、急速に全身状態が悪化する可能性があります。
腎盂腎炎でやってはいけないこと
- 以前余った抗菌薬を自己判断で使う
- 人間用の抗菌薬を与える
- 症状が良くなったから処方薬を勝手に中止する
- 血尿だけを見て尿路用療法食へ変更する
- 水を制限する
- 吐いている犬へ大量の水を無理に飲ませる
- お腹や腰を強く揉む・マッサージする
- 尿が出ない犬の下腹部を押して排尿させようとする
- 高熱がないから感染ではないと判断する
- 繰り返す尿路感染を毎回同じ膀胱炎として放置する
特に、尿が出ない犬の膀胱を家庭で押すことは危険です。閉塞や強い炎症がある可能性があるため、排尿を無理に促そうとせず受診してください。
子犬で腎盂腎炎を繰り返す場合
子犬でも腎盂腎炎は起こります。
若い犬で尿路感染を何度も繰り返す、子犬の頃から尿漏れが続く場合は、異所性尿管などの先天的な尿路異常がないか確認することがあります。
「トイレトレーニングができていないだけ」と長期間決めつけず、寝ている時にも尿が漏れる、歩いている間に少しずつ尿が落ちるなどの状態が続く場合は獣医師へ相談してください。
シニア犬では腎臓病との区別・併発に注意
高齢犬では慢性腎臓病自体が比較的多くなるため、多飲多尿、食欲低下、体重減少が出ても「腎臓病が進んだ」と考えやすくなります。
しかし、腎盂腎炎が新たに加わることで、それまで安定していた腎数値が急に悪化する場合があります。
慢性腎臓病の犬で、急に食べなくなった、吐くようになった、尿路症状が出た、血液検査の数値が短期間で悪くなった場合は、感染など治療できる要因が重なっていないか確認することが重要です。
よくある質問
Q. 犬の腎盂腎炎は膀胱炎が悪化した病気ですか?
下部尿路の細菌が上行して腎臓へ感染することが多いため、膀胱炎などが背景にあるケースはあります。ただし、すべての膀胱炎が腎盂腎炎になるわけではなく、腎盂腎炎でも膀胱炎症状が目立たないことがあります。
Q. 腎盂腎炎なら必ず熱が出ますか?
いいえ。発熱する犬もいますが、発熱が確認されない犬もいます。熱がないことだけで腎盂腎炎を否定することはできません。
Q. 血尿がなければ腎盂腎炎ではありませんか?
血尿が見られないケースもあります。元気低下、食欲不振、嘔吐、腎臓の数値変化、尿培養などを含めて評価します。
Q. 腎盂腎炎は尿検査だけで分かりますか?
尿検査だけで確定できないことがあります。尿培養、血液検査、超音波などを組み合わせ、ほかの急性腎障害の原因も確認します。
Q. 尿培養はなぜ必要ですか?
感染している細菌の種類と、どの抗菌薬が効きやすいかを確認するためです。適切な抗菌薬を選び、不必要な抗菌薬の使用を減らすためにも重要です。
Q. 抗菌薬はどのくらい飲みますか?
近年の獣医資料では10~14日が推奨されていますが、小動物で最適な期間を決めるデータはまだ十分ではありません。感染の状態、培養結果、腎機能などで変わるため、処方した獣医師の指示に従ってください。
Q. 症状が良くなったら抗菌薬をやめてもいいですか?
自己判断で中止しないでください。症状が改善しても感染が完全に解消しているとは限りません。投与期間や再検査について獣医師の指示を守ります。
Q. 腎盂腎炎は治りますか?
急性の腎盂腎炎では適切な治療によって良好に回復する犬もいます。一方、尿路閉塞、結石、慢性腎臓病、尿路の構造異常などがある犬や、慢性・再発性の腎盂腎炎では治療が難しくなることがあります。
Q. 腎盂腎炎から慢性腎臓病になることはありますか?
重い感染や慢性的・再発性の感染で腎臓へダメージが残ると、長期的な腎機能低下につながる可能性があります。そのため治療後の腎数値や尿の再評価が大切です。
Q. 水をたくさん飲ませれば菌を流せますか?
新鮮な水を自由に飲める環境は大切ですが、大量の水を無理に飲ませても腎盂腎炎の治療にはなりません。吐いている犬や意識の悪い犬へ無理に飲ませることは避けてください。
Q. 腎盂腎炎は再発しますか?
再発することがあります。繰り返す場合は、結石、尿路閉塞、糖尿病、尿が残りやすい状態、尿路の構造異常など感染を起こしやすい背景を探すことが重要です。
まとめ|犬の腎盂腎炎は「膀胱炎+全身症状」だけでなく症状が乏しいケースにも注意

犬の腎盂腎炎は、腎盂や腎臓に細菌感染が起こる病気です。
多くは細菌が尿道・膀胱から尿管を通って腎臓へ上がることで起こり、大腸菌がよく確認される原因菌のひとつです。
症状には、元気消失、食欲低下、嘔吐、多飲多尿、頻尿、血尿などがありますが、すべての犬に同じ症状が出るわけではありません。
特に重要なのは、発熱や腹部・腎臓周辺の痛みが必ず見られるわけではないことです。「熱がないから大丈夫」と判断しないでください。
腎盂腎炎では急性腎障害を起こしたり、慢性腎臓病の犬を急に悪化させたりすることがあります。また、尿管結石などの閉塞と感染が重なると膿腎症へ進み、緊急処置が必要になる場合があります。
診断では尿検査だけでなく、尿培養と薬剤感受性検査が重要です。血液検査や超音波などを組み合わせ、腎機能、結石、閉塞、基礎疾患などを確認します。
治療の中心は原因菌に合った抗菌薬です。近年の獣医資料では10~14日の治療が推奨されていますが、小動物での最適期間に関するエビデンスはまだ限られているため、個々の犬の状態と再検査に基づいて獣医師が判断します。
症状が良くなったからと抗菌薬を途中でやめたり、再発時に以前余った薬を自己判断で使ったりしないでください。
再発する場合は、膀胱炎を繰り返しているだけと考えず、尿路結石、尿路閉塞、糖尿病、慢性腎臓病、尿が残りやすい状態、先天的な尿路異常などを調べることが大切です。
ぐったりしている、何度も吐く、水を飲んでも吐く、尿が出ない、血尿とともに全身状態が悪い、強い痛みがある場合は、自宅で抗菌薬や人間用の薬を使わず早めに動物病院へ連絡してください。
腎盂腎炎は、早く気づいて適切な培養検査と治療につなげること、そして治療後まで感染と腎機能を確認することが大切な病気です。


